「認知症」と聞くと、多くの人が「できればなりたくない」と思うはずです。実際、ある調査では“最もなりたくない病気”の1位が認知症でした。自分のこととしても、親のこととしても、いちばん避けたい——そんな病気です。
私たちブレインスリープは、その名のとおり“脳が眠る(BRAIN SLEEP)”を掲げる会社です。日本の睡眠課題を解決したいという思いから立ち上げ、「脳までしっかり眠れてこそ最高の睡眠」という考え方で活動してきました。だからこそ、プロジェクトを始めるにあたって、「脳の病気」である認知症に向き合うのは、私たちにとってごく自然なことでした。
そもそも認知症は、ただの“もの忘れ”とは少し違います。年をとって名前がパッと出てこないのは誰にでもあること。けれど認知症は、体験したこと自体をまるごと忘れてしまったり、日付や場所がわからなくなったりと、脳の働きそのものが落ちていく状態を指します。日本では65歳以上の約8人に1人がそうだと言われ、決して珍しい話ではありません。
だからこそ、『今の睡眠が未来の脳をつくる』。そんな視点で睡眠を見直してみませんか。
睡眠と認知症 Q&A
「よく眠ることは、脳の健康とどう関係するの?」——睡眠と認知症について、よく聞かれる質問を4つ、できるだけやさしくまとめました。
この記事でわかること
- 睡眠と認知症は、どう関係しているの?
- 睡眠不足や不眠だと、認知症になりやすいの?
- 認知症になると、眠り方は変わるの?
- 認知症を予防するために、睡眠でできることは?
Q1.睡眠と認知症は、どう関係しているの?
眠っている間、脳は“掃除”をしています。この掃除が、認知症と深く関わっていると考えられています。
脳は、日中に活動すると「ゴミ」にあたる不要な物質を出します。その代表がアミロイドβです。アルツハイマー型認知症に関わるので“悪者”のように思われがちですが、実はそうではありません。もともと体内で自然に作られる物質で、健康な人の脳でも、毎日つくられては片づけられています。アミロイドβは使い終わると細切れになり古いアミロイドβは脳から除去されるのですが、その排泄が上手く行かず脳内で固まってしまったときに問題になるのです。
このアミロイドβは、主に深く眠っている間に洗い流されます。眠ると、脳の表面や脳室内に存在する液体(脳脊髄液)が脳の実質内に取り込まれ、ゴミを押し流していきます。この“脳の掃除のしくみ”は「グリンパティックシステム」と呼ばれています。いわば、睡眠は“脳の掃除の時間”なのです。
睡眠が足りないと掃除が追いつかず、ゴミがたまりやすくなります。実際、24時間眠らずに過ごすと、脳の中のアミロイドβが増えた、という研究があります。たまったアミロイドβは固まって神経細胞を傷つけ、やがて脳が縮んでいきます。これがアルツハイマー型認知症につながる要因の一つと考えられています。認知症の発症には、血管の状態、慢性炎症、遺伝的な要因、生活習慣など、さまざまな要素が複雑に関係します。そのなかでも近年は、アミロイドβやタウ蛋白が脳内に蓄積することの重要性が特に注目されています。
睡眠と認知症をつなぐしくみは、これだけではありません。もう一つが、脳を目覚めさせる「オレキシン」という物質です。起きている間はゴミ(アミロイドβ)が増えやすく、眠ると増えにくくなることがわかっています。ただし、こうしたしくみにはまだわかっていないことも多く、研究が続いている段階です。
POINT
睡眠は、脳のゴミを片づける大切な時間です。
- 参考
- Xie L, et al. Science. 2013;342:373-377(グリンパティックシステム)
- Ooms S, et al. JAMA Neurol. 2014;71:971-977(一晩の断眠と脳脊髄液のアミロイドβ42)
- Kang JE, et al. Science. 2009;326:1005-1007(オレキシンとアミロイドβ)
Q2.睡眠不足や不眠だと、認知症になりやすいの?
睡眠は、脳の健康を守るうえで大切だと考えられています。睡眠と認知症の関連を示す研究が、数多く積み重なってきたからです。
① 睡眠時間が短いと
約8,000人を25年以上追いかけたイギリスの研究では、中年期に6時間以下の睡眠が続いていた人では、7時間程度の人に比べ、その後に認知症になる割合がおよそ3割高いことが示されました。中年期の睡眠と、将来の認知症とを、長い年月をかけて結びつけた研究です。
② 昼寝のとり方でも
眠れない・睡眠が足りない人にとっては、昼寝のとり方も大切です。昼寝の長さによって、認知症のリスクが変わることがわかっています。昼寝をする場合は、午後の早い時間帯に、30分未満を目安にするとよいでしょう。
- 30分未満の昼寝:昼寝をしない人にくらべ、発症リスクが約6分の1にとどまる。
- 30分〜1時間の昼寝:約5分の2にとどまる。
- 1時間以上の昼寝:逆に、リスクが約2倍に上がってしまう。
知っておきたいこと
ここで挙げた研究は、いずれも「睡眠に問題のある人では認知症が多い」という関連を示したもので、「睡眠不足が原因だ」と確かめたものではありません(認知症の始まりが、逆に睡眠を乱している可能性もあります)。それでも、睡眠と脳の健康のつながりは多くの研究で示されており、睡眠を大切にする意味は十分にあります。
POINT
睡眠を大切にすることは、脳の健康を守るために、今日からできる取り組みです。
- 参考
- Sabia S, et al. Nat Commun. 2021;12:2289(英ホワイトホール研究、睡眠時間と認知症)
- Asada T, et al. Sleep. 2000;23:629-634
Q3.認知症になると、眠り方は変わるの?
はい。認知症そのものが、眠りに変化をもたらすことがあります。
特に高齢者では、うつや不安、服用している薬、身体疾患、睡眠時無呼吸症候群、生活環境の変化など、さまざまな要因が睡眠に影響します。さらに、認知症そのものによって睡眠のリズムや眠り方が変化することもあります。睡眠と認知症の関係は、一方通行ではありません。眠りが脳に影響するだけでなく、認知症になったことで眠り方が変わることも、よく知られています。代表的なものを挙げます。
| 眠りの変化 | どんなことが起こりやすいか |
|---|---|
| 昼と夜が逆になる | 体内時計がずれて、日中に眠り、夜に目が覚めて動き回ることがあります。 |
| 夕方に落ち着かなくなる | 夕方から夜にかけて、不安や混乱が強まることがあります(一般には「夕暮れ症候群」と呼ばれます)。 |
| 夢の内容に合わせて動く・叫ぶ | 眠っている間に大声を出したり、手足を激しく動かしたりします。とくにレビー小体型認知症で多く見られ、認知症の症状が出る数年前から現れることもあります。 |
とくに、レム睡眠行動異常症と呼ばれる、夢の内容に合わせて大声を出したり体を動かしたりする症状は、レビー小体型認知症(幻視やパーキンソン症状=動きにくさを伴うタイプの認知症)やパーキンソン病と関わりが深いものです。認知症の症状が出るより何年も前から現れることがあり、早く気づく手がかりになります。
昼夜の逆転や夕方の不穏は、ご本人のつらさであると同時に、介護するご家族の負担にもなります。こうした症状は、日中に光を浴びて活動し、夜は落ち着ける環境を整えることで、和らぐことも症状の軽減に役立つ場合があります。
POINT
夜中の大きな声や激しい寝相が続くときは、加齢のせいと決めつけず、早めに相談を。
Q4.認知症を予防するために、睡眠でできることは?
「これで確実に防げる」方法は、まだありません。でも、今日からできることはあります。
睡眠を整えることは、そのまま“脳と体の健康によい生活”です。特別なことは必要ありません。次のことから、できる範囲で始めてみましょう。
- 起きる時間・寝る時間を、できるだけ一定にする。
- 朝、太陽の光を浴びる。体内時計が整い、夜よく眠れます。
- 自分に合った睡眠時間をとる(大人は7時間前後が目安。個人差があります)。
- 日中はよく体を動かす。運動や外出が、夜の深い眠りを助けます。
昼寝は「30分未満」に
昼寝をとるなら、30分未満がおすすめです。長すぎる昼寝は、かえって認知症のリスクを高めることがあります(くわしい数字はQ2)。
気になる問題は、放置しない
大きないびきや日中の強い眠気、夜中の大声や激しい寝相(Q3)などが続くときは、加齢のせいと決めつけず、専門の医療機関に相談しましょう。早く気づくほど、できることの選択肢が広がります。
POINT
特別なことは不要。「よく眠れる生活」を整えることが、そのまま脳をいたわることにつながります。