かつては仕事優先で、睡眠は二の次だったというキャスターの安藤優子さん。一方、世界的な睡眠研究拠点であるスタンフォード大学で長年研究を続けてきた西野精治さん。そんな2人が知られざる「睡眠」について語り合います。第一回は西野さんの眠りの研究について伺います。
「なぜ眠るのか」——いまだ謎多き睡眠研究の世界
西野先生の本を読んで、こんなに睡眠って大切なんだ!と改めて思いました。西野先生は何がきっかけで睡眠を研究し始めたんですか?
元々は脳の研究に興味があって、精神科医になりました。精神科医といっても色々な分野があるのですが、私は脳の神経がどのように働いて、私たちの思考や記憶、行動を作り出すのかを科学的に研究するニューロサイエンスが専門。例えば統合失調症であれば、物質的なレベルまで突き止めるような研究をしていました。で、大学院に所属していたときに、ボスから「脳の研究といえば睡眠だ」と言われて、スタンフォード大学で共同研究をしてこいと送り出されたのがきっかけです。
西野先生はどんな研究をされてきたのでしょうか?
「ナルコレプシー」と呼ばれる過眠症です。
昼間に耐えられないほどの眠気が襲う睡眠障害ですよね。
そうです。1999年に私たちの研究チームは犬の家族性ナルコレプシーの原因遺伝子を特定し、翌2000年にはヒトのナルコレプシーでオレキシンが欠乏していることを報告しました。
犬も寝ちゃうんですね?
はい。ただ、犬の場合、寝るというよりも目立つのは脱力発作です。突然、脱力発作が起こって、倒れ込んでしまう。人の場合は精神性のものではないかとか、長らくその原因はわかりませんでしたが、レム睡眠の異常であることがわかりました。
知らなかったことが本当に多いですね。睡眠についてまだまだ解明されていないこともあるんですか?
そうなんです。睡眠の役割は色々あると言われていますが、まだまだわからないことが多いのが現状です。また、国際的に睡眠障害は60種類以上に分類されていますが、そのほとんどが解明されていません。難しいのは、例えば不眠症でも、色々な要因が複雑に絡み合っている場合があって。そういうものは解明するのが難しい。
研究室の知見で、日本の眠りを変える
脳に関する色々な研究が進んでいるなかで、西野先生が研究とは別に「ブレインスリープ」を起業したのはなぜですか?
私も結構歳を取りましたから(笑)、長年培ってきた知見を還元し、皆さんに睡眠の重要性を啓蒙しながら、改善できないかと考えたからです。また、ブレインスリープにはウェアラブルデバイスなどもありますから、こういったプロダクトを通じて、現在の皆さんの睡眠課題を顕在化し、それを研究に活かし、また還元できれば睡眠はもっと良くなっていくと考えています。
スタンフォード大学のあるアメリカではなく、日本で起業したというのは、日本が睡眠軽視の風潮があったからですか?
今は少なくなってきたかもしれませんが、高度経済成長期を過ごしてきた人たちは、睡眠を削って働いてきた人が多い。
寝る間も惜しんで働くみたいな。
そうです。特に上司や経営者には、そういう働き方をしてきた人も多いと思います。受験勉強にしても、昔は「四当五落」という言葉があって、睡眠時間を4時間にして勉強すれば合格して、5時間寝ると落ちるって(笑)
睡眠不足が社会に与える、大きな代償とは
そういう日本人の睡眠に対する基本的な考え方を、企業によって変えていきたいということですね。アメリカにはそういう考えがないんですか?
アメリカでは睡眠は単なる個人の健康問題ではなく、社会に損害を与えるものだということで、1988年に連邦議会によって国立睡眠障害調査研究会が設置され、1993年に連邦議会と保健社会福祉省長官宛に「Wake up America」という警告書を提出しました。その調査では睡眠障害が適切に診断・治療されないためにどんな弊害が起こっているかということが書かれていて、睡眠障害の直接コストは約160億ドル、生産性低下による損失は1500億ドルと試算が出されていました。
そんなに大きいんですか。先生のお話を聞いて、いかに睡眠を感覚的に捉えていたか、まだまだ知らないことが多いことがわかりました。
締め
第二回では、安藤さんのこれまでの睡眠履歴を西野さんがチェック。ハードな日々を送ってきた安藤さんの睡眠を、西野さんはどのように判断するのでしょう。
NEXT DIALOGUE
vol.01 中編記事
西野精治が睡眠履歴をチェック安藤優子さんの眠りの話