安藤優子さんと西野精治さんが、眠りについて語り合う第二回。報道の第一線で働き続けてきた安藤さんの睡眠の履歴を振り返りながら、現代人の睡眠課題をひも解きます。仕事に、家事に忙しく、なかなか睡眠が取れないという方は必見です。

報道の裏側で抱えていた慢性的な睡眠不足

西野精治

安藤さんは長く報道の現場にいらっしゃいましたよね。報道は忙しいイメージがありますが、当時の睡眠はどんな感じだったのでしょう?

安藤優子

睡眠は一番後回しでした。紛争や事故、災害現場に行くことも多く、当然飛行機での移動があります。取材の下準備があるので、機内では基本的に仕事をしていて、一旦仕事に入ったらほとんど寝ませんでした。

西野精治

海外が多かった?

安藤優子

多いときは年間200日ぐらい海外にいるときもありました。海外だと時差もあるので、昼夜逆転していることもしょっちゅう。例えばアメリカのワシントンDCから生中継をする場合、夕方のニュースに合わせるには午前4時から中継が始まります。そうなると午前1時から準備をする。もちろん取材もありますから、寝る時間がないんですよ。そもそも報道は24時間365日何が起きるのかわからないので、いつ何時でも、何かがあればそれに対応するという約束になっていました。だから一泊分の荷物とパスポートは常に持ち歩いていました。

西野精治

安藤さんの場合、仕事中は過覚醒、過緊張の状態がずっと続いていたんだと思います。

安藤優子

職業病でしょうね。現地に行って、自分がやるべきことが見えてくるとアドレナリンが出るというか、寝てる場合じゃないとなっていました。西野先生を前にして言うのも憚られますが、睡眠に関しては相当蔑ろにしてきた人生だったなと思います(笑)

眠れない日々が心と記憶に残したもの

西野精治

若いうちはいいですが、年齢を重ねるとだんだん無理が利かなくなってくるし、良い仕事をするためにも適切な睡眠はとったほうがいい。その状況で、安藤さんは当時、メンタルや体の不調を感じることはなかったんですか?

安藤優子

眠りたいという気持ちは常にあったので、眠れないことへの苛立ちみたいなのは確かにありました。あと、こんな生活は正常じゃない、こんなことをしていたらまずいという思いも常にありました。大きな災害があると、報道特別番組が組まれるのですが、7〜8時間CMなしで進行するんです。こういうときは時々意識がぼ〜っとすることはありました。ただ、そのときはトランス状態で疲れは感じないんです。でも後から疲労感が襲ってくるんです。

西野精治

それは当然です。脳は臓器の中で酸素消費量がとても多いんですね。だから肉体労働をしなくても、疲労が溜まるわけです。疲れが溜まれば、多少乱暴になったり、苛立ったりすることもあります。また、第一回でお話しした「レム睡眠」は、眠っているのに脳が動いている状態ですが、この時間に自律神経を整えたり、記憶の整理などに関わっています。だから例えば辛いことがあったときや、不安があるときに睡眠をたくさん取るのはいいことなんです。

安藤優子

「日にち薬」という言葉がありますけど、睡眠が関係しているのかもしれないですね。西野先生のそのお話を聞いて思い出したことがあります。紛争地に行ったときに野戦病院の取材をしたことがあります。廊下や担架で寝ている負傷者の合間を歩いて取材をしていたのですが、没頭するあまり人を跨いでしまったことがあって。その瞬間を自分では気づいていなかったのですが、帰ってきてから疲れるたびに、その病院から絶対に抜け出せないという夢を見るんです。どの扉を開けても、どの階段を上り下りしても、絶対に出られない。これが私はしんどくて、今でも疲れたときは夢に出てくるんです。あのときにきちんと休んで、眠って、記憶の整理ができていたら、そうならなかったんじゃないかと。

西野精治

強いストレスによるPTSDに近い状態かもしれませんね。それだけ強いストレスがかかっていたということで、そのとき眠れていなかったことも一つの要因だった可能性があります。ベトナム戦争から帰還したアメリカ兵士が多くPTSDを発症しましたが、彼らもその当時、睡眠状態が良くなかったと言われています。ところで現在の睡眠状況はいかがですか?

睡眠を取り戻して見えてきた、暮らしのリズム

安藤優子

今は早寝早起きで、結構寝ています。犬を飼っていて、朝は夏なら午前4時半までには散歩に出ないといけないんです。だから夜はなるべく早く寝たくて、21〜22時には寝ています。仕事も朝は重くして、夜を軽くして、17時にはスイッチオフするようにしています。

西野精治

犬がいるのはいいことです。彼らは一定時間になると起こしにきますよね。睡眠への意識が変わったきっかけは何だったのでしょう?

安藤優子

私は長く睡眠への飢餓感みたいなものを持っていたので、皆さんは眠れることの贅沢さを軽視されていると思うんです。夕方、扇風機をかけて犬と一緒にお昼寝している時間がものすごい贅沢だなと実感しています。

西野精治

うとうとしながら、眠りに入るのは気持ちいいですよね。

安藤優子

犬の生活はすごくシンプルなんですよ。起きて、食べて、遊んで、散歩して、また寝て、起きて、食べて……。(試験で)いい点を取ったり、いい仕事をしたり、そういうこととかけ離れたところにいて、それで十分幸せなわけです。そういうシンプルなサイクルの中に、私としては色々な気づきがありました。

西野精治

実は昼寝にもメリットがあるんですよ。次回は良い睡眠とは何か、睡眠が我々にどのように影響するのかをお話ししていきましょう。

締め

最終回では睡眠研究の最前線から、睡眠が我々の生活へ及ぼす影響、そして改善方法を西野さんが詳しく解説します。