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山中慎介
元WBC世界バンタム級王者 「神の左」と言われる左ストレートを武器に戦ってきた元プロボクサー。元世界ボクシング評議会(WBC)バンタム級王者で日本歴代2位となる12度の世界戦防衛を達成し、2018年3月に引退。現在、ボクシング解説者としてまた、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。
あなたにとって睡眠とは?
今も向き合い続けているもう一人の相手
現役時代、リングの上で向き合ってきたのは相手選手だけではなかった。パンチの速さや強さ、駆け引きの巧さと同じくらい、実は「眠れているかどうか」が調子を左右していた。振り返ってみると、睡眠もまた、長年付き合い続けてきた「対戦相手」のひとつだったように思う
現役時代:8時間睡眠と、迫る回復力の変化
現役時代は、8時間睡眠を基本に生活を組み立てていた。夏場は朝5時から走り、お昼には昼寝を1時間ほど取り、15時から17時半まではジムでの練習。日曜日は完全に体を休める日と決めていた。今振り返ると、かなり規則正しい生活だったと思う。トレーニングの量や強度ばかりが注目されがちだが、実際にはこの「眠る時間」と「休む日」を確保できるかどうかが、長くリングに立ち続けられるかを分けていたのかもしれない。

現役時代を振り返ると、そこまで眠れなかったという記憶はあまりないが、若い頃は多少眠りが浅くても、翌日にはきちんと戻っていた。ところが、現役の終盤に差しかかった頃から、睡眠の「回復力」そのものが落ちてきているのを感じるようになった。年齢を重ねるにつれて、その戻りが目に見えて遅くなっていったのだ。長年、減量や体調管理には人一倍気を使ってきたつもりだったが、回復に時間がかかるということを実感してからは、今まで以上に睡眠を大事にするようになった。神経質になり寝れない日々があったかと言われれば、そんな記憶はないが、それでも追い込まれるほど眠れなくなるということがあるのは、勝負の世界に身を置く選手なら、誰もが一度は経験することかもしれない。

引退後、変わった眠りのリズムと今の生活
引退してからは、寝る時間そのものが大きく変わった。現役の頃より短くなったし、何より時間帯がバラバラになった。トレーニングのために眠っていた頃と違って、今は人付き合いも含めて「脳の疲れ」の方が大きい気がしている。体を追い込んで眠るのと、頭を使って眠るのとでは、疲れの質が違うのだと、引退してから気づいた。
今の生活は、朝7時に起きてルームランナーを40分。派手なことは何もしていないが、体を軽く動かしてから一日を始めると、頭の切り替えがスムーズになる気がしている。眠る環境については、室温にこだわる方だ。少し肌寒いくらいがちょうどよく、暑すぎても寒すぎても眠りが浅くなってしまう。ただ最近変わったなと感じるのは、夜中にトイレで目が覚める回数が増えたこと。若い頃にはなかった変化で、歳を重ねるというのはこういうことなのかと、体の声を通して実感している。
解説者やタレントの仕事では、朝のスッキリ感が何より大事になった。前の晩の眠りが悪いと、その日一日やりにくさを引きずってしまう。現役時代は多少の寝不足も気合いでねじ伏せられたが、今の仕事はスタートで躓くと立て直しがきかない。一方で、意外だったのは子育てだ。夜中の寝かしつけも、正直あまり苦にならない。現役時代、奥さん任せだった育児は、年々自信と楽しさを感じている。
おわりに:眠りは、今も向き合い続ける相手
現役時代の私にとって、「眠ること」は練習や減量と同じくらい、大事な仕事の一部だった。引退して生活の形は変わったけれど、体が発するサインには、あの頃よりもずっと素直に向き合えるようになった気がしている。眠れない夜があること、思わず二度寝してしまう朝があること。それすらも、すべて体からのメッセージだと受け止めるようになった。
かつてリング上で相手のわずかな癖や呼吸を見逃さなかったように、これからは自分自身の睡眠と、じっくり向き合っていきたい。しっかり回復すること、脳を休ませることが、翌日のパフォーマンスに直結するというのは、現役時代に本当に実感してきたことだ。だからこそ、これだけは断言できる。睡眠は絶対に大事だ。今にして思えば、あの頃もっと質のいい眠りを追求していたら、キャリアはもっと違うものになっていたかもしれない――そう思うと、少し悔しくもあり、笑ってしまう部分でもある。頑張るすべての人に伝えたい。眠りを軽く見ないでほしい、と。それは、これまで多くの試合を戦ってきた自分自身への戒めでもある。

SLEEP ACTION LAB 編集部
SLEEP ACTION LAB の編集チームです。医師・研究者の監修のもと、睡眠の悩みや疑問、そしてさまざまな人の眠り方を取材し、「眠りを、みんなで考える」ための記事をお届けしています。