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おおうちひなこ
イラストレーター。2021年、文具・カレンダーメーカーに勤めながら、イラストレーターとして活動を始める。2023年に独立。幼少期から生き物が好きで、大学では生物を学んでいたことから、動物をモチーフにした作品を多く制作している。音楽や言葉からインスピレーションを得て制作したり、心地よい線や色を探しながら絵を描く。関西を中心に個展を開催するほか、各地のイベントに似顔絵やワークショップなどで参加している。
あなたにとって睡眠とは?
ごきげんに生きるためのもの。
「あ、やっぱり絵描きたいわ」
5年ほど前、通勤電車に揺られながら「あ、やっぱり絵描きたいわ」とふと思った。
イラストレーターとして独立する前はカレンダー・文具メーカーに勤めていた。商品を作る企画の仕事と、それをお店に置いてもらうために店舗や企業へ販売しにいく営業の仕事をしていた。商品企画は自分が考えたアイデアをデザイナーやイラストレーターにお願いして形にしてもらう。企画の仕事は楽しかったしやりがいも感じていたので好きだった。でも、やればやるほど「わたしもそっち(絵を描く方)やりたいな、、」という気持ちが強くなってくる。
もともと描くことは好きだったけど、プロとしてやっていけるひとなんて一握りやろ、と思って大学進学の段階で職業にすることは諦めていた。でもその描きたい気持ちは自分が思っていたよりも根っこが深かったのか、大人になってからも芽が出た。
そこから神戸にある絵話塾(かいわじゅく)というプロとして活動されている方々が絵について授業をしてくれる教室に通い始めた。「イラストレーターとはそもそもなんぞや」というところから勉強し始めた。休みの日に授業があるので、会社員をやりながらでも通える。でちょうどよかったのだ。
そこで初めていわゆる「作品」というものを描くようになった。
先生に描いた作品を見てもらっていくうちに、「おおうちさん個展やってみたら?」と言われた。それがなんだか嬉しくて、その勢いで「じゃあ、やってみます!」という感じで個展をやることにした。
その初個展をきっかけに、日中は会社員として働き、帰宅後に絵を描くという生活になった。
個展となると、ただ描いて自分だけで楽しむだけじゃなくて、人に見てもらうことになる。展示のタイトルやテーマのようなものが必要になってくる。作品も何点か必要だし、初個展で作品1枚だけではどうにもならない。
「寝不足でもかまわん!」と思っていた日々
会社から帰ってきて夜描き始めるのがだいたい21時くらい。途中で睡魔が襲ってくるので、リビングのソファで1時間ほど寝てまた描き始める。限界がきたらベッドに行って寝る、みたいな生活だった。
朝になったら、起きているのにまだ寝ているような感覚で通勤する。しんどかったけれど、その時は個展のための作品を描き上げることに必死だったので「寝不足でもかまわん!」と気合いでどうにかしていた。今考えると全然よくない(笑)
改めて文章にするとすごく過酷な感じに聞こえるが、その時は描くのに夢中で「しんどいからもうやめたい」とは思わなかった。それよりも早くイラストレーター・作家として活動したいという気持ちの方が強かった。

そういう経緯もあって深夜制作型が体に染み付いていたのだ。
会社を辞めてからイラストレーターとして独立して、時間の使い方が自由になってからも制作は夜にすることが多かった。深夜は街が寝静まっている感じがして好きだ。窓を開けて外からたまに聞こえるトラックの音も心地いい。静けさの中でどんどん潜っていくように意識が集中していく。そうやって集中モードにして夜を過ごしていた。
「もっと描かなきゃ」が、しんどくなっていった
会社を辞めて、「よーし!たっぷり時間ができた!思いっきり描くぞ!」と意気込んでいたけれど、最初から仕事が継続してあるわけもなく、それがちょっとずつ焦りに変わっていった。お仕事も探さないといけないし、知ってもらうために個展ももっとしなきゃいけない。そうやってわたわたしていると、もっと描かなきゃ、うまくならなきゃ、という気持ちがでてきた。
会社員時代はとにかくがむしゃらに時間がない中、描いていたけれど、独立後は時間ができたのに夜まで起きているようになってしまった。昼間に描いて、夕方になったら終わりにしてもいいはずなのに、「まだ描ける時間がある」と思うと、なかなかやめられない。今日はこれだけしか描いていないけど大丈夫かな。もっとやらないといけないんじゃないか。今日はまだ何も成し遂げてないのに、寝てもいいのか…?たぶんそんな不安があったのだと思う。
思った通りの絵にならないと納得できなくて、だんだん失敗することが怖くなった。作品作りがしんどい。なんだこれは。絵を描きたくて仕事を辞めたのに、ちょっと嫌いになってない?大丈夫?昔は眠たくても描きたかったのに、なんでや。
たくさん時間をかければかけるほど、いい絵が描けるというわけでもないのかもしれない。
「ちゃんと寝る」という、シンプルな答え
そんなモヤモヤを抱えていたある時、他の作家の方と「絵はいつ描いてますか?」という話になった。その方は朝に制作されるらしい。
「夜はね、執着心が出やすいからね。絵は楽しく描いたらいいですよ。なんなら、お酒飲みながらやってもいいくらいですよ~笑」と言っていた。
それを聞いて、「え~、そんな感じでいいの?!」と驚いた。
ふむふむ、なるほどな。言われてみればそうかもしれない。
夜中は静かで集中できる環境だけど、つい追求しすぎてしまう。確かに変なこだわりもめっちゃ出てくるわ。
私の場合、夜は疲れが出るのか、だんだんとネガティブ強モードになってくる。ちょっとのバランスが気になりすぎたり、些細なことが気になってしまって、なんだか気持ちよく描けない。力みすぎだ。本当はこの力を入れたり緩めたりしないといけないんだろうけど、グググ……となったまま上がってこれないのだ。視野2㎝くらいになっている。
そうやってぐるぐるし続けた先に、ポッ!と突然描ける時もある。けど、それよりも思ったように描けなくて深夜にひとりで「うまくいかん!ガーン!」となるほうが辛いのだ。
言われてみればあれは執着だったのかもしれない。
その時に、「睡眠はちゃんととったほうがいい」ということに気がついた。当たり前なことすぎて笑っちゃう。恥ずかしい。ありとあらゆるところで言われていることだけれど、初めて身をもって感じた。本当にそれまでちゃんと睡眠について真剣に考えたことがなかった。
寝る2時間くらい前にお風呂に入って、ちょっとストレッチをして、ベッドを整える。「今から寝ますよ~」と自分に伝えてるみたいに、寝る準備をしていく。そうやってスッと眠れた次の日はやっぱり気持ちがいい。
朝起きて、まだぼんやりしながらコーヒーを飲んで、少しずつ頭が起きてくる。机に向かって昨日の続きを描いてみると、夜中にはあんなに気になっていたところが、朝見ると「まあ、これはこれでいいか」と意外と悪くないと思えたりもする。もちろん朝だからいつでもいい絵が描けるわけではない。でも、少なくとも夜中にひとりで「なんでうまくいかないんだ…」と追い込まれている時より、ずっと気楽に自分の絵を見ることができる。絵を描くことそのものに、少し余白ができたような感じがした。

そこから、できるだけちゃんと寝て描くようになった。だんだんと制作も午前中にすることが増えた。
それと同時に、フリーランスになっていろんな人と関わっていくうちに、自分の絵が「こうでなきゃいけない!」と思うことがなくなってきた。
今は絵といい距離を保っているのかもしれない。
絵は楽しく遊ぶように描いていたい。なんでかというと私がそういう風にして描いている人の絵が好きだからだ。気持ちは絵に出る。
もちろん、ものづくりの過程で大変なことやしんどいことはたくさんある。それがあるから、さらにより良いものになっていくんだと思う。でも、できるならその悩みすらも楽しんでいたいなとも思う。
今でも夜更かしすることはある。作品作りと仕事の締め切りが重なったり、どうしようもない時は遅くまで描くこともある。でも、「睡眠を削ればその分絵が描ける」とは思わなくなった。整った生活があって、その上に制作や仕事があるのだ。
いろんな描き方を試してみた結果、心地よく楽しく絵を描いていくため、そしてそれを長く続けていくためには、「ちゃんと寝る」というめちゃくちゃシンプルな答えに行き着いたのでした。
SLEEP ACTION LAB 編集部
SLEEP ACTION LAB の編集チームです。医師・研究者の監修のもと、睡眠の悩みや疑問、そしてさまざまな人の眠り方を取材し、「眠りを、みんなで考える」ための記事をお届けしています。