生理前や更年期になると急に眠くなったり、逆に眠れなくなったりするのはなぜ? 意志の弱さが原因?

意志の弱さや生活の乱れのせいだと思われがちですが、女性ホルモンの変化も影響しています。エストロゲンやプロゲステロンの分泌量は、人生のステージやひと月の周期の中で大きく変動し、体温調節やレム睡眠の出方に直接影響するため、時期によって「眠くなりやすい」「眠れなくなりやすい」のはむしろ自然な体の反応です。

女性ホルモンと睡眠

「最近やたら眠い」「夜中に何度も目が覚める」——そんな変化を感じたとき、つい「自分の意志が弱い」「生活習慣が乱れているせい」と自分を責めてしまう人は少なくありません。しかし女性の睡眠は、月経周期・妊娠・産後・更年期という4つの大きなホルモン変動の波の影響を強く受けることが、睡眠医学の知見からわかっています。

生理前に眠くなる・眠りが浅くなる理由

女性の体は1ヵ月の中で「月経期・卵胞期・排卵期・黄体期」という4つの時期を繰り返しています。このうち生理前にあたる黄体期には、女性ホルモンの一種であるプロゲステロンの分泌量が増加します。プロゲステロンには体温を上げる作用があり、卵胞期と比べて基礎体温が0.3〜0.4℃ほど高くなることが知られています。

睡眠は、夜にかけて深部体温がしっかり下がることでスムーズな入眠が促されます。ところが黄体期はこの体温低下が起こりにくく、朝の体温上昇も緩やかになるため、寝つきが悪くなったり、夜間の睡眠の質そのものが低下したりします。その結果として、日中に強い眠気を感じやすくなるのです。

さらに黄体期はレム睡眠の量そのものが減り、入眠からレム睡眠が出現するまでの時間も短くなることが報告されています。アメリカで600人を対象に行われた調査でも、月経の前後に睡眠の質が低下しやすいという結果が出ており、これは決して一部の人だけに起こる特殊な現象ではありません。

妊娠中に睡眠トラブルが増える理由

妊娠も睡眠が大きく揺さぶられる時期です。妊娠を継続する女性の約6割が、出産前後にかけて何らかの睡眠の問題を訴えるといわれています。妊娠初期はホルモン変化によって眠気が強まり、睡眠時間は長くなる傾向がある一方、夜中に目が覚める回数が増え、睡眠の質は下がりやすくなります。妊娠中期になると一時的に眠気は落ち着きますが、妊娠後期には再び不眠が出やすくなります。

妊娠後期の不眠は、頻尿(調査では妊婦の8割以上が経験)や、お腹が大きくなることで「楽な姿勢が取れない」という身体的な問題(妊娠末期には9割以上が経験)があります。また、体重増加に伴って「閉塞性睡眠時無呼吸症(いびきや呼吸停止を伴う睡眠障害)」のリスクが上がるほか、脚がむずむずして眠れなくなる「むずむず脚症候群」も、非妊娠時の2〜3倍の頻度で起こるとされています。これには葉酸や鉄分の不足、下肢の血流低下、ホルモンバランスの変化などが関わっていると考えられています。なお、妊娠中に発症したむずむず脚症候群は出産後に改善するという特徴があります。

産後の急激な変化と「マタニティブルーズ」

出産直後は、ホルモンバランスが急激に変化し、過度の疲労も重なることで、涙もろくなったり気分が不安定になったりする「マタニティブルーズ」が起こりやすくなります。これは意志の弱さや性格の問題ではなく、あくまで体調変化に起因する生理的な反応です。しかし、睡眠と抑うつ症状には強い関係があり、妊娠中に抑うつの症状はなくても不眠や睡眠の質の低下があった場合、出産後に抑うつ症状が現れる割合が高くなることがわかっています。マタニティブルーズを経験した人は、経験していない人に比べて産後うつになる確率が約10倍にもなるというデータもあり、決して軽視できるものではありません。周囲の正しい理解とサポートが重要です。

更年期に不眠が急増する理由

更年期は、女性の健康課題の中でも「不眠」が最も多い訴えとされています。この時期の不眠の主な原因は、女性ホルモンの一つであるエストロゲンが急激に減少することです。治療法としてホルモン補充療法などが行われることもありますが、不正出血や胃のむかつき、乳房の痛みといった副作用が出る可能性もあるため、医師との相談が欠かせません。

また、閉経後は女性ホルモンの低下によって脂肪組織が増えたり、呼吸中枢への作用が弱まったりすることで、閉塞性睡眠時無呼吸症やむずむず脚症候群のリスクも高まることが報告されています。

日本人女性は世界で一番眠れていない?

経済協力開発機構(OECD)の国際比較データでは、日本人女性の睡眠時間は調査対象国の中で最も短いという結果が出ています。欧米では男性より女性の方が20〜30分ほど長く眠る国が多い一方、日本を含むアジアでは逆に女性の睡眠時間が男性より短い傾向があり、特に働く女性ほどその傾向が強くなります。

さらに、ある国内調査では自分の睡眠の質を「非常に悪い」「悪い」と回答した割合が最も高かったのは30代女性で、約半数近くに上ったという結果もあります。これは女性ホルモンの変動による身体的な要因に加え、家事や介護の負担が依然として女性に偏っている社会的な背景も影響していると考えられます。

このように、女性の睡眠の乱れは「気合い」や「甘え」の問題ではなく、ライフステージごとのホルモン変動という明確な生理学的根拠に基づくものです。まずはこの仕組みを正しく知ることが、自分を責めずに適切な対策(体温管理、婦人科への相談、生活リズムの調整など)を選ぶための第一歩になります。

この記事のまとめ

女性の睡眠は、月経周期・妊娠・産後・更年期など、ライフステージごとのホルモン変動に大きく影響されます。眠気や不眠、睡眠の質の低下には生理的な理由があり、その仕組みを知って適切に対処することが大切です。

参考文献・出典

一般社団法人ブレインヘルスラボ監修『SLEEP PLANNER』PART1「睡眠の基礎知識」第5章7「女性の睡眠」、厚生労働省e-ヘルスネット、OECD Gender Data Portal 2021、ブレインスリープ社2022年度睡眠偏差値調査を参照)

本記事は情報提供を目的としたものであり、診断や治療を目的としたものではありません。
症状や治療については、必ず医療機関にご相談ください。

SUPERVISOR

西多 昌規

西多 昌規

WRITING

SLEEP ACTION LAB 編集部

SLEEP ACTION LAB 編集部

SLEEP ACTION LAB の編集チームです。医師・研究者の監修のもと、睡眠の悩みや疑問、そしてさまざまな人の眠り方を取材し、「眠りを、みんなで考える」ための記事をお届けしています。