結局、何時間寝ればいいの?
実は「〇時間寝れば絶対大丈夫」という、万人共通の正解はありません。必要な睡眠時間には個人差があり、年齢によっても変わっていきますが、多くの成人にとって「これより短いと注意が必要」という目安となる下限は6~7時間です。
理想の睡眠時間は何時間?年代別に医師が解説
「結局、何時間眠れば正解なの?」——このシンプルな疑問に、実はスパッと一つの数字で答えることはできません。というのも、必要とされる睡眠時間には個人差があり、一概に「これが適切な睡眠時間だ」と述べることは難しいとされているからです。
睡眠時間は「山型」に分布している
睡眠時間などの生物学的な特徴は、多くの場合きれいな正規分布を描きます。真ん中が高く、両端になだらかな裾野が広がる山のようなグラフをイメージしてください。
もっとも人数が多いボリュームゾーンは7〜8時間睡眠の人たちですが、中には3〜4時間ほどの超短時間睡眠で足りる人や、逆に13〜14時間ほど必要とする人もわずかながら存在します。
「隣の人が6時間で平気そうだから自分もそれでいいはず」とは、必ずしも言えないのです。
年齢によって「必要な睡眠時間」は変わる
ただし、一つだけはっきりしていることがあります。それは、年齢や成長段階によって必要な睡眠時間は変化していくということです。
厚生労働省が2024年に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、目安となる睡眠時間はライフステージごとに示されています。小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間、そして大人(成人)は6時間以上を目安に確保することが推奨されています。
年齢を重ねるほど、必要とされる睡眠量は少しずつ減っていき、高齢者ではむしろ寝床で長く過ごしすぎないこと(床上時間が8時間以上にならないこと)が注意点として挙げられています。
つまり大人の場合、6時間を下回る睡眠が続いているなら、基本的に足りていないと考えてよいでしょう。
時間の面から見た下限の目安はおおむね6〜7時間で、より安全域をとって7時間を目安と考える専門家もいます。いずれにせよ、7時間を切る日が続いている場合は、注意が必要なサインだと捉えてよいでしょう。ただし後で述べるように、大切なのは時間の「長さ」だけではありません。
日本人は世界一眠れていない
「自分だけ眠れていないのでは」と感じている方も多いかもしれませんが、実はこれは日本人全体に共通する傾向です。経済協力開発機構(OECD)が実施した成人を対象とする調査では、日本は世界でもっとも睡眠時間が短い国という結果が出ています。

日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、世界平均と比べて1時間以上も短いのです。しかもこの傾向は青年や成人だけでなく、乳幼児においても見られ、日本人はどの年齢層でも極端に睡眠時間が短いことがわかっています。
国内の推移を見ても、状況は楽観視できません。
NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」によると、平日の睡眠時間は1995年には7時間27分でしたが、そこから2010年にかけて減少傾向が続きました。2015年にいったん歯止めがかかり、その後は横ばいとなっていますが、2020年時点でも7時間12分にとどまっています。就寝時刻がどんどん後ろ倒しになっていったことが、睡眠時間減少の一因と考えられています。

「平日眠れていない分、週末に寝だめしているのでは?」と思う方もいるでしょう。しかし2020年の調査では、土曜日が7時間46分、日曜日が8時間2分と、2015年の調査から大きな変化はありませんでした。つまり多くの日本人は、週末にまとめて眠ることでも平日の不足を十分には解消できていないのです。
「睡眠負債」という考え方
この「積み重なった睡眠不足」を説明するのによく使われるのが、「睡眠負債」という言葉です。これはスタンフォード大学で睡眠生体リズム研究所を創設したウィリアム・C・デメント教授が、蓄積する睡眠不足の危険性をわかりやすく伝えるために用いた言葉です。必要な睡眠時間より短い睡眠が続くと、足りない分がまるで借金のように積み重なっていく、という考え方です。

一つの目安として、休日の睡眠時間が平日より2時間以上多くなっている場合は、睡眠負債がたまっているサインと考えられます。そして実験結果からもわかる通り、休日の寝だめだけでは日々蓄積した負債を返しきることはできません。
世界的に見ても睡眠時間が短い日本人は、慢性的な睡眠不足によって睡眠負債がたまりやすい状況にあります。「何時間寝ればいいか」という問いへの答えは、結局のところ「あなたに合った時間」としか言えませんが、7時間を切る日々が続いている、休日にいつも寝だめをしてしまう——そうした心当たりがある方は、すでに睡眠負債がたまっているサインかもしれません。まずは自分に合った適切な睡眠時間を、毎日きちんと確保することが何より大切です。
そして忘れてはいけないのが、睡眠は「時間の長さ」だけでなく「休養がとれた感覚(睡眠休養感)」も大切だということです。睡眠ガイド2023でも、必要な睡眠時間の確保とあわせて、この睡眠休養感を高めることが重視されています。まずは自分に合った適切な睡眠時間を、毎日きちんと確保すること。そのうえで「朝すっきり目覚められているか」に目を向けることが、何より大切なのです。
この記事のまとめ
理想の睡眠時間に万人共通の正解はなく、年齢や個人によって異なります。成人は6時間以上の確保が推奨されますが、時間だけでなく、休日の寝だめや日中の眠気、朝の「休養がとれた感覚」も大切な判断基準です。
参考文献・出典
一般社団法人ブレインヘルスラボ監修『SLEEP PLANNER』PART1「睡眠の基礎知識」第1章3「適切な睡眠とは」/出典データ:経済協力開発機構OECD「Gender Data Portal 2021」、NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)
本記事は情報提供を目的としたものであり、診断や治療を目的としたものではありません。
症状や治療については、必ず医療機関にご相談ください。
SUPERVISOR
西野 精治
スタンフォード大学医学部精神科教授。ナルコレプシーの発生メカニズム解明で世界的評価を受ける睡眠研究の権威。ブレインスリープ創業者として、研究の知見を暮らしの中に活かす活動にも取り組んでいる。
WRITING
SLEEP ACTION LAB 編集部
SLEEP ACTION LAB の編集チームです。医師・研究者の監修のもと、睡眠の悩みや疑問、そしてさまざまな人の眠り方を取材し、「眠りを、みんなで考える」ための記事をお届けしています。